一言一話 73

 

固有名詞

 「固有名詞」は語り手が無意識的記憶に認める三つの特性をもつ。つまり、本質化の能力(というのは、唯一の指向対象だけを指示するからである)、引用の能力(というのは、名前を口にすることによって、名前にこめられた本質のすべてを思いのままに呼びだせるからである)、探究の対象となる能力(というのは、思い出の場合とまったく同様、固有名詞も<<繰りひろげる>>ものだからである)、「固有名詞」はいわば無意識的記憶の言語形式なのである。したがって、『失われた時を求めて』を<<発進させた>>(詩的)事件とは、「名前」の発見ということになる。

過去は突起した固有名詞のもとに茫洋と広がっている。