幸田露伴芭蕉七部集『冬の日』評釈の評釈20

のりものに簾透く顔おぼろなる  重五

 

 一句の情は解釈をまつまでもなく明らかである。簾は乗り物の簾である。前句は野草に蝶が遊ぶことが人を愁いに誘ったが、この句は他から見るその人のありさまをあらわしているだけだが、言葉のあり方、切り取り方に佳趣がある。簾近くに顔を寄せるとその面影がすけて見える。この駕籠のなかの人を上﨟といい、左遷で遠くにながされた人などと解釈するのは行き過ぎていて、ただ前句の野草に遊ぶ蝶に愁いをおぼえ涙する人であり、後句からは後句でどのようにも変化するものである。