幸田露伴芭蕉七部集『冬の日』評釈の評釈47
縁さまたげのうらみ残りし 芭蕉
従姉妹のために縁を妨げられたことがあり、恨みが残っているという解は受けいれがたい。本来は従姉妹と縁があったものを、親の家が衰え傾いて親類のあいだで疎まれるようになったとか、あるいは他の家より強引に娘をその男にめとらせるよう策略が用いられたとか、あるいは無法者の横恋慕によってこの女に難をつけて縁組みの約束を破らせてしまったとか、その他、盗賊にさらわれたとか、親の金策のために身を売ったとか、なんらかの事情があって、薄々知っていた自分の縁が破れてしまった恨みが残ったと解する方が、世相にあることでもあり、妥当だろう。従姉妹同士の縁組みの約束は、田舎では間々あることで、当人同士も薄々そのことを知りながら育っていく歳月のあいだ、懐かしくも恥ずかしくもあって、物心ついてから互いに会うことはあっても、じかに向き合うこともできず、逃げ隠れすることもある。従姉妹のために縁を妨げられるなどということは、あることもあろうが、稀であろうから、逆手を取って投げつけるように、この句を従姉妹に恨みがあると思って解する必要もない。