ケネス・バーク『動機の修辞学』 60

.. 「神性」の修辞的光輝

 

...   I.ヘンリー・ジェイムズの「もの」の神性

 

 『ポイントン邸の蒐集品』の序文で、ヘンリー・ジェイムズは、あるクリスマス・イブ、「薄暗いロンドンの夜に心地よげな美しい光を放つテーブル」についているとき、ある言葉を聞き、すぐ小説のプロットの「萌芽」になることがわかったと言っている。それは「父親の死によって若い息子とのものとなった、古い見事な家の価値ある家具の所有権をめぐる」母親と息子の争いであった。ジェイムズはそれを「家の守り神をめぐる・・・争い」と見た。その状況に彼が価値を見いだしたのは、

 

現代に広く行き渡っている情熱、装飾家や建具屋、細工師たちがより骨を折って仕事をしていた時代につくりだした椅子やテーブル、飾りダンスや戸棚、あれこれのがらくたに対する猛烈な欲望に鋭い光を投げかけていたからである。実際、この好奇心と熱心さ、様々な暗示の広がりは、我々の習慣を強烈に色づけており、明らかに、他の情熱や諸関係に影響を及ぼしうる。表面的には、「事物」がまさしくそうした危機状況の中心にあるだろう。こうして分類された物たちは、すべて自分の卓越性や価値に意識的であり、どんな争いの場においても、堂々とした貫禄を示すだろう。

 

 

 後に彼はこう要約する。

 

 争いが繰り広げられる城であり、真の中心は、ものの美であり、戦いによって勝取られるものの価値であって、それらは照明の中央で常に輝き、目の覚めるような独自性と、それぞれが異なった役割で、偉大な劇を演じているのだという共通の意識をもつようしつらえられている。

 

 

 

 我々がこうした一節に止まるのは、それがこの作品だけでなく、ジェイムズの作品全体の動機づけになっていると考えられるからである。序文に散在する緊迫した表現を拾い上げてみると、

 

生き生きした点・・・金の肌理・・・繊細な秘密・・・狂気・・・熱狂・・・神秘・・・小さな金の塊・・・心地よさと魅力に輝くテーブル・・・<あらゆる>病毒・・・一瞬のひらめき・・・明滅する光・・・高く建てられ積み上げられる・・・想像力の深みで探索される塊・・・家の守り神・・・高貴さ・・・堂々とした・・・偉大なる陣容・・・精妙なる防御・・・戦いによって勝取られる美と価値・・・照明の中央にしつらえられた・・・偉大な劇・・・一般的な光り輝く存在・・・礼拝所の落ち着いた光のなかでの真鍮の偶像、高価な金属、埋め込まれた宝石・・・ロマンス的な・・・驚くべき・・・見事な・・・

 

 

 こうした言葉がまき散らす独特の雰囲気を心にとどめたうえで、次の文章を読むべきである。

 

その通り、これは飾り棚とテーブルと椅子の物語である。それらが争いの原因であるが、堂々と受けて立ったその「結果」は、比較的卑俗な問題をあらわしているように思える。古代におけるトロイのヘレンのように、美が働いた結果生まれる情熱、権能、力は、画家ででもあれば、真に欲せられ、最初から真価を認めざるを得ない力なのである。

 

 

 「真価」というこの語が次の展開をもたらす。このものの劇に人間の登場人物をいかに導き入れたらいいかが論じられ、典型的なジェイムズ的解決、フリーダ・ヴェッシュという処方に行き当たるのである。人は「複雑さの中心、抑えきれない真価の現れる場所に止まるべき」であって、「最初から最後まで・・・あらゆる真価はフリーダのなかに生きており・・・『もの』は容赦のない単調さで遙か遠くまで光を発散し仮借なしに荒廃へと向かう。他の者は見ることなく感じるだけなのだが、フリーダは悪魔のように、見てかつ感じるのである」と彼は言う。同様に、彼女は「自由な精神」を授けられており、それは「常に非常に苦しみ」、決して常に勝利をもたらすわけではないのだが、「英雄的で、反語的で、哀愁に満ちて」いる。

 

 彼が「神秘」、「家の守り神」、「礼拝所」などについて言い及んでいることを単なる便宜主義としては無視し得ない。他方、彼が物質的な「もの」に、全能の神の祭壇にある聖遺物のような真の神性を与えているとも言えない。この解釈はジェイムズを神の冒涜者として非難することになろう。最初の考え方は我々を美の冒涜者とするもので、小説家の芸術家としての良心を捉え損なうことになる。明らかに、これら身近なものは精神でもある、或いは、ある種の霊的な容器である。フリーダはその存在の魔術を感じることができる稀なる人物なのである。身分の証しとして望まれた財産をめぐる争いは、ジェイムズがその対象に争いを超越した領域或いは秩序を示す輝きを見いだすことで、より高次の次元に達することになる。序文では、それらのもつ神秘的に放射される力がなんなのかは語られていないが、我々は「社会神秘的な解釈によって」、そこに位階的な動機の「謎めいた」しるしを見て取ることができないだろうか。