幸田露伴「是は/\」

 質屋の佐野平に鹿鳴館から使いが来る。伺ってみると、貴婦人がいて、巨瀬金岡、古土佐、探幽応挙、容斎北斎などを気に入って七千円程度、千円だけ手付けにして取り置いてもらっているが、すでに日本で買い物をしすぎ、本国から送ってもらっているが、まだ一週間くらいかかる様子、その間には同じく目をつけたフランス人が即金で一万円払うといって、店のものも心が揺らいでいるよう、そこで世界でも四番目に大きいと言われているこのダイヤを質に入れ、利子も千円払うので、六千円貸してくれないかという話、雰囲気とあまりに大きな話に圧倒されて佐野平は貸してしまった。

 

 一晩たってみると、なにか煙に巻かれた感じがする。そこにあらわれたのが甥の理学士、ダイヤを見てこれは偽物だと喝破した。鹿鳴館に連絡をしても、すでに貴婦人はいない。仕方がないので、佐野平安く人造ダイヤを売り払い、新聞はこの事件を長々しく書き立てた。

 

 さて、一週間がたつと、かの貴婦人、供を引き連れ、七千円を持ってあらわれた。さあ質に入れた品物を返してもらいましょうと居丈高な様子、そこにぬっと出た佐野平理学士、質物をお返しします、七千円頂戴しましょう、これには是は是は、と帰らざるを得ない一行、新聞を使ってうまいこと騙りに対処したのだった。落語にありそうであり、いかに露伴が江戸の町人文化に親しんでいたかもあらわしている。