ケネス・バーク

ケネス・バーク『宗教の修辞学』 11

こうしたことと関連して、人間の経験的な定義は次のようになろう。 人間は (1)シンボルを使用する動物である。 (2)否定的なものの発明者である。 (3)自分のつくった道具によって自然の制約から離れた。 (4)位階の精神によってせき立てられる。 …

ケネス・バーク『宗教の修辞学』 10

アナロジーについては、ここにあげた六種類と、それに関わるものとでいいだろう。要約すると、「言葉-ロゴスとしての言葉」のアナロジー、「物質-精神」のアナロジー、「否定的なるもの」のアナロジー、「名義」のアナロジー、「時間-永遠」のアナロジー…

ケネス・バーク『宗教の修辞学』 9

六種類のアナロジーは次のようにまとめられる。 (1)言葉に関する言葉と、ロゴスとしての言葉に関する言葉との類似性。 (2)言葉と非言語的な自然との関係は、精神と物質との関係に等しい。 (3)否定的なるものについての理論の冒頭の置かれる言語理論…

ケネス・バーク『宗教の修辞学』 8

第六のアナロジー このアナロジーは、三位一体の意匠と「言語的状況」に潜む形式との顕著な相似に関係している。そして、この考察は、三位一体に関しては、父が力に、息子が知恵に、聖霊が愛に等しいことに基づく。 第一に、ものとその名との関係を考えよう…

ケネス・バーク『宗教の修辞学』 7

第五のアナロジー 第五のアナロジーは「時間」と「永遠」に関わっており、テキストとして聖アウグスティヌスの『告白』からの引用を使うことができる(第四巻第十章)。移ろいゆくものについて論じて、アウグスティヌスは言う。 これはあなたがあらゆるもの…

ケネス・バーク『宗教の修辞学』 6

第四のアナロジー 第四のアナロジーの弁証法は、第三のものと緊密に絡み合っているので、別々に扱うことは難しい。そこで、両者を含む例を使うことによって、第三から第四のアナロジーへの移行を示してみよう。 そのもっとも厳密な意味における実在の世界、…

ケネス・バーク『宗教の修辞学』 5

第三のアナロジー 第三のアナロジーは、言語と神学の双方で重要な役割を演じる否定的なものに関わる。 言語学におけるコージプスキー学派が一貫して強調している点から始めよう(それは正当なことでもある————というのも、そのことは原理においては明白だが…

ケネス・バーク『宗教の修辞学』 4

第二のアナロジー 語と非言語的な事物との関係は、精神と物質との関係に等しい。 つまり、もし非言語的なものを「自然」と同一視するなら(「自然」とは言語以下のもので、言語を使用できる存在が全滅したとしても存在し続ける電気化学的な運動である)、言…

ケネス・バーク『宗教の修辞学』 3

第一のアナロジー 「一般的な語」(低次な)と「ロゴスとしての語」(大文字の)との第一のアナロジーについて、いくつかの主要なテキストをあげると次のようになる。 「ヨハネによる福音書」の冒頭、「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であっ…

ケネス・バーク『宗教の修辞学』 2

1 一般的語とロゴスとしての語について 我々は一般的な「語」(低次)と、大文字の「語」(ロゴス、賢者の一言)とのアナロジーに関心をもっている。「一般的な語」はまず、自然主義的な、経験に基づいた指示物をもっている。しかし、類推によってより高次…

ケネス・バーク『宗教の修辞学』1

【『宗教の修辞学』はおそらく3分の2程度しか訳していない。中盤からアウグスティヌスの徹底的なクローズド・リーディングになり、あまり訳している意味を見いだせなくなったからである。前半部は面白い。】 序 神学とロゴロジーについて 「神学」を「神に…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 69

... 9.究極的同一化 『宗教的経験の諸相』の神秘主義の章で、ウィリアム・ジェイムズは神秘的な高揚という稀な瞬間を証言し、神秘的状況を記述しようとした数多くの記事を広く引用している。この本を終わるに当たり、そこから抜粋し、つみ取ったものを並べ…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 68

... 8.撞着語法の原理 行為者と場面を含み、言語を越えた場も存在する。だが、文学の学徒として我々は、詩人が一貫してあることを語るときに、諸感覚に訴えるだけでなく、「神秘的解釈」そして/或いは「社会神秘的解釈」によって輝きと共鳴を引きだすよう…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 67

... 8.撞着語法の原理 行為者と場面を含み、言語を越えた場も存在する。だが、文学の学徒として我々は、詩人が一貫してあることを語るときに、諸感覚に訴えるだけでなく、「神秘的解釈」そして/或いは「社会神秘的解釈」によって輝きと共鳴を引きだすよう…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 66

... 7.エリオット:初期の詩と「四重奏」 エリオットの場合、反対の方向が認められ、範囲も狭いが、考察と議論には十分である。つまり、詩人は、「登攀の有効範囲」としては希薄であったイメージを後により豊かな意味合いで使うようになった。それを示すた…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 65

... 6.イエーツ:「ビザンチウム」と後期の詩 「向かい合わせの鏡に映る、すべてがみせかけだ」とイエーツ後期の厳しい時期の詩にある。初期の作品で「純粋な心」から生じた「我が物顔のイメージ」を問い直して、くずに過ぎないと答える。 ごみの山、通り…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 64

... 5.ホプキンスにおける高揚感と懈怠 ジェラルド・マンリー・ホプキンスの詩を考えると、次のような段階が見て取れる。 1.早熟で官能的な感覚的イメージがある。例えば、カレッジで賞を取った詩には、光、花、宝石、色彩がちりばめられ、ほとんど感覚…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 63

... 4.「山登りの意味の拡がり」 アクイナスは、信仰の対象は二つの方向において考えることができると言っている(dupliciter)。(1)信じられるものの側面から(ex parte ipsius rei crecditae)。ここでは、信仰の対象は単純である(aliquid incomplex…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 62

... 3.神の修辞的な名前 しかし、ある条件に従えば、人間は社会的身分による曖昧な美化の背後で、或いはそれを越えて、究極的な存在の土壌と真に神秘的な交感をすることができると信じている人間についてはどうなのだろうか。自然の対象が天上の位階のしる…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 61

... 2.ジェイムズにおけるイメージの「社会的評価」 『ポイントン邸の蒐集品』のジェイムズの序文には、「社会神秘的解釈」による批評一般の方法の根拠となる発言がある。だが、我々はいまだ個物の位階的価値をあらわにする正確な手順を手にしているわけで…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 60

.. 「神性」の修辞的光輝 ... I.ヘンリー・ジェイムズの「もの」の神性 『ポイントン邸の蒐集品』の序文で、ヘンリー・ジェイムズは、あるクリスマス・イブ、「薄暗いロンドンの夜に心地よげな美しい光を放つテーブル」についているとき、ある言葉を聞き、す…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 59

しかしながら、「純粋な説得」についての議論は、神学の修辞にまで我々を導いたのであるが、「純粋な説得」そのものは「宗教的」説得と同じではないことを再び強調しておかねばならない。純粋な説得は具体性を取り去った亡霊のようなものである。しかし、宗…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 58

制度的なもののみによる説明が我々を誤らせるように、精神分析的なもののみによる説明も同じように我々を誤らせる。第一に、言語の本性にある弁証法的動機は、精神分析では、心理学的動機の単なる派生物として扱われる。純粋に「形式的な」状況、言語が超越…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 57

我々は神学者的な意味における「神」を発見しているわけではない。神学者にとっての神は、弁証法的に到達される「観念」以上のものであるに違いない。正統的な教義の観点から判断すると、純粋な「弁証法的神」は単なる「自然神」と同様不満足なものだろう。…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 56

.. 純粋な説得 明らかに、修辞学の問題で行ける所まで行くと、「純粋な説得」の問題に突き当たる。しかし、それは形而上学の、よくとも「メタ修辞学」の境界に足を踏み入れることなので、できる限り個別例を心にとどめておくべきである。 それでは、『不思議…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 55

.. 秩序、秘密、殺害 今日、不条理と殺害の神学的−美的礼賛と、心理学的−美的礼賛とを区別するのは困難である。例えば、心理学では「神はアブラハムに何を求めたのか」とは問わず、「アブラハムはなぜ息子を殺す『べき』だと考えたのか」と問う。かくして、…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 54

.. 殺害と不条理 生け贄に関して。マックス・ブロートからの引用は、キルケゴールの読者が、神がアブラハムにイサクを生け贄に供えるよう命じたという聖書の物語をどのように解釈するかを示している。だが、聖書によれば、アブラハムが「刃物をとり、息子を…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 53

.. 「弁証法的叙情詩」(キルケゴールの『恐れとおののき』) 一昔前のデパートには、支払所と個々の売り場とのあいだを走る小さな運搬台があった。(いまでも時折見かけるが、ほとんど空圧式の送菅に取って代わられている。)それらは急発進し、それぞれの…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 52

.. 宮廷作法の戯画:カフカ(『城』) 『宮廷人の書』の弁証法的対称を視野におきつつ、フランツ・カフカのグロテスクな小説『城』を考えてみよう。トーマス・マンはカフカを「宗教的ユーモリスト」と呼んだ。うまい例えであって、それだけにマンがした以上…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 51

.. 宮廷作法の範型:カスティリオーネ 多分、我々の目的にとって最適なテキストは、マキャベリの同時代人であり、彼と同じく君主の原理に関心を払ったバルダサール・カスティリオーネの『宮廷人の書』である。大きな構想のもち、段階を追って変わる宮廷作法…