ケネス・バーク

ケネス・バーク『動機の修辞学』 50

.. 『ヴィーナスとアドニス』の「社会神秘的」解釈 文学作品の宮廷作法的動機に特徴的な表現について考えるとき、シェークスピアの物語風の詩、『ヴィーナスとアドニス』は最適である。風変わりなのは、<性的な>求愛の物語であるが、我々の探求にとってよ…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 49

.. 宮廷作法 レトリックにおける「宮廷作法の原理」は、社会的な疎隔を超越するための説得技術を意味している。「異なった種類の存在」が交流しあうことに宮廷作法の「神秘」が存在する。かくして、我々は気後れや自ら課する制限にそうした「神秘」のしるし…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 48

.. 「神話的」基盤と「状況の文脈」 感覚的イメージと神話的イメージには本質的な差異はないと考えられる。両者とも、単に、観念の修辞的な補強物として扱える。それゆえ、公的な表現として社会的に流通し、多かれ少なかれ限定的集団の個別な観点をあらわし…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 47

.. 「知識の社会学」対プラトン的「神話」 『イデオロギーとユートピア』でカール・マンハイムが論じ、計画した「知識の社会学」は、マルクス主義的レトリックを中立化、自由主義化する目的をもった方法論だと言える。実在的、弁証法的、究極的用語法を区別…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 46

.. マルクス主義的説得における究極的要素 一度語を発達的系列のなかに位置づけてしまえば、それらの語は、その本性からして限界をもつ、系列の究極的な完成(「終了」)に参加し、配列されていると言える。各段階は、そのふさわしい「瞬間」に、系列全体の…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 45

. III 秩序 .. 実在的な語、弁証法的な語、究極的な語 第一に我々が取り上げるのは、<実在的な>語である。それはとりわけ、<いまここにある>経験された事物を名づけるもので、生物学的分類のように<種と種差によって>定義される。ベンサムが法の「…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 44

.. 「幼年期」、神秘、説得 修辞学的に考えると、象徴の説得力として「謎」の要素を受け入れることは、「魔術」や「神秘」を階級文化の受動的な反映であると同時に、文化的な凝集を維持する能動的な働きと見なすよう促すことになる。こうした説得の弁証法に…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 43

.. 中世期の修辞学 これまで述べてきたことが修辞学に関する包括的な研究になっていると言うつもりはない。我々はこの特殊な「修辞哲学」を打ち立てるのに「役立てる」ことのできる作家たちのある側面だけを取り上げようとしたのであり、それによってその哲…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 42

.. ダンテの『俗語論』 「同一化」のレトリックが「無意識」と合流する地点があって、その問題に関してダンテの『俗語論』を考えることができる。ロンギヌスの『崇高について』がそうであるように、重視されているのは詩だが、このエッセイは詩と修辞学とが…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 41

.. マキャベリの「行政的」修辞 マキャベリの『君主論』は、<聴衆に影響を及ぼそうとした>ものである限り、修辞として扱うことができる。君主の臣下が聴衆だったこともあるし、外国の支配者や住人が聴衆だったこともあり、国家の特定の党派が聴衆だったこ…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 40

.. パスカルの「意図の方向づけ」 パスカルのレトリックの原理は腐敗した神学的修辞を分析した、それ自体活発な修辞に満ちた『プロヴァンシャル』の第七書簡に簡潔に述べられている。ベンサムについて述べた際に我々はそれを用いた。しかし、ベンサムからマ…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 39

.. ド・グールモンの「分離」 多分、同一化と分裂という問題、それが説得に及ぼす影響について最も鮮やかで、根源的な取り組みを見せたのは、レミ・ド・グールモンのエッセイ「観念の分離」であろう。(『デカダンス、その他諸観念の文化についてのエッセイ…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 38

.. ロシュフーコーにおける一般的、特殊的、個人的動機 文化によっては「観念」の構成要素が異なると論じることができる。あるいは、すべての要素は常にそこにあるのだが、異なった比率にあると論じられるかもしれない。かくして、物々交換の社会の原理は、…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 37

.. ディドロの「パントマイム」論 我々の神話の観点から、ディドロの『ラモーの甥』で「私」と「彼」の間に交わされる、ほとんどヒステリー的とさえ言える才走った対話の「謎めいた」性質についてみてみよう。この混乱と鮮やかなまでの倒錯の理由はすぐに明…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 36

.. 位階の隠喩的な見方 もう一度試してみよう。(直接にあたることはしない。最上のやり方は、どんな機会でも捉えて、同じ中心に向かい異なった接近方法を試してみることにある。) 「高次」と「低次」の存在による位階の原理、ダーウィンの進化論やマルクス…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 35

.. 「観念」の優先 「階級の修辞」には、コールリッジが思い描いた「一次的」想像力と「二次的」想像力の区別に似た異なる同一化の種類が含まれている。 パブロフが「条件反射」の実験で研究した類の機械的な連合がある。観念とイメージとの、原因と一般的原…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 34

.. ヴェヴレンにおける模倣としての「ねたましさ」 ソースタイン・ヴェブレンの『有閑階級の理論』はその特殊例においてよりも「一般的原理」で考えた方がいい。エンプソンはその繊細さにおいて素晴らしいが、ヴェヴレンは不格好に進む。彼の諸動機について…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 33

.. エンプソンの「牧歌的」同一化 我々はいま、「宮廷作法は、いかに回りくどいものではあっても」と言った。ウィリアム・エンプソンの独創的な著作『英国の牧歌』(イギリスでのタイトルは『牧歌の諸変奏』)は、このほとんど知られていない修辞に関する考…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 32

.. カーライルの「神秘」 マルクスの階級の神秘化についての洞察は予期せぬ方向から、同じくらい執拗な十九世紀の作家によって強化されるのだが、彼は「神秘」を称賛的な用語として用い、その拒絶を美的なものに対する嫌悪と見なしている。我々が言っている…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 31

.. 唯名論的隠匿(クロムウェルの動機に関して) マルクス主義のイデオロギー分析は、文学的美学的な過去の遺物のなかで、ただ「諸観念」だけが生き残るという事実によってある意味誤った方向に導かれ得るのではないだろうか。名誉、忠誠、自由、平等、同胞…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 30

.. マルクスの「神秘化」 中世初期の修辞学理論を論じた箇所で(『スペキュラム』1942年1月)、リチャード・マッケオンは書いている。「カッシオドルスによれば、『修辞の技芸とは、世俗的な言葉の精通者が教えるものであり、市民社会の問題をうまく語る学で…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 29

.. .. ベンサムの修辞的分析 説得の研究についてのベンサムの偉大な貢献は、そのほとんどが彼自身の意図に反してなされた。形象の暗示を真に越えることのできる議論の方法を奨励しようとして、彼はいかに我々の思考が形象に支配されているかをあらわにした。…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 28

.. イメージと観念 イメージを強調することは、観念に反対することを含んでいる。エドモンド・バークは、間違いなく、観念とイメージを相互に補完するものとして扱いたがり、彼の処方によれば、重要な言明はすべて考えとイメージと感情を持っているべきであ…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 27

.. 想像力 恐らく、一種の<知>としての想像力の理論は、詩的思考と科学的思考とが重なり合う領域において最上の働きをするので、説得手段としての「想像力」への関心は近代になるまで十分な開花を見るに至らなかった。また、古典的修辞学におけるそうした…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 26

.. 大きな修辞形式 より大きな説得の形式もあって、聴衆の善意を守ろうという前置きから始まり、次に自分の立場を述べ、そして議論になっているところを指摘し、十分に自分の見解を述べ、反対者の主張を退け、最後の締めくくりには、反対者の論点は無視して…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 25

. 形式的訴えかけ いかに同一化の原則を含んでいるかを示そうと、形式的な訴えかけについて先に言及した.ときには、その普遍的性格から、修辞学から詩学への移行が容易になされた。かくして、効用というより、文学的評価の観点から偏向的な弁舌をも考察し、…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 24

.. 修辞的動機の他の形態 修辞の普遍性を主張している箇所において(『弁論家について』の第一巻)、キケロは正しい行動と正しい言葉が一つと考えられていた幾分神話的な段階から始めている(アキレスの訓練を書いたホメロスが引用される)。次に彼が遺憾を…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 23

.. 同一化 ソクラテスを引用して、『弁論術』のなかでアリストテレスは、「アテナイ人のなかでアテナイ人を褒め称えるのは困難なことではない」と言っている。彼は、聴衆が一般的に美徳だと考えているものの目録をつくる。公正である、勇気がある、自制心が…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 22

修辞の伝統的原理 .. 説得 「説得を目的とした発言」(dicere ad persuadendum accommodate)。これがキケロの対話篇『弁論家について』で修辞(またその同義語である「雄弁」)に与えられた基本的定義である。キケロの代弁者であるクラッススは、当然のよう…

ケネス・バーク『動機の修辞学』 21

.. 修辞の現実主義的働き 進むにつれて勇気を得た我々は、修辞学に人類学を導入するよう提案するよりは、人類学者が自らの領域に修辞学の要素があることを認めたのだとさえ主張できるようになった。つまり、こうした議論から最近の原始魔術についての研究を…